食事・栄養・腸内環境

ゼロカロリー甘味料と認知機能:8年追跡研究の読み方

ゼロカロリー甘味料と認知機能低下の関連を示した8年追跡・12,772人のELSA-Brasil研究を解説。「62%速い低下」「1.6年分の脳の加齢」という数値の正しい読み方、逆因果という観察研究の限界、WHO・FDAの見解、そして毎日の習慣を見直す実践的な目安まで整理します。

📅 2026.08.06 ⏱ 約8分 Wellmetrics 編集部

Key Takeaways

  • 8年追跡12,772人で最高摂取群の認知機能低下が62%速いと報告された
  • 差はダイエット炭酸飲料1缶相当の191mg/日と20mg/日の比較で生じた
  • 60歳未満と糖尿病のある人で関連が強く、60歳以上では有意差なし
  • 観察研究のため因果は未確定。逆因果の可能性を含めて読む必要がある

甘味料摂取量別の認知機能スコア推移(概念図・ベースライン=100)

出典: Gomes Gonçalves et al., Neurology 2025 の効果量(+62%)から作成した概念図

-19% Wave1 (2008-10) Wave2 (2012-14) Wave3 (2017-19) 最高摂取群(191mg/日) 最低摂取群(20mg/日)

8年・12,772人が示した「62%速い低下」

「カロリーゼロだから罪悪感なく飲める」——ダイエット飲料や糖質オフ食品を日常的に選ぶ人にとって、2025年9月に神経学の専門誌Neurologyに掲載された研究は無視しにくい内容でした。

舞台はブラジルの大規模コホートELSA-Brasil(ブラジル成人健康縦断研究)です。6都市で登録された公務員のうち、食事データが不完全な人などを除いた12,772人(平均年齢52歳)を、2008–2010年・2012–2014年・2017–2019年の3時点、平均約8年にわたって追跡しました。

食物摂取頻度調査(FFQ)から、アスパルテームやサッカリン、エリスリトールなど7種類の甘味料の摂取量を算出し、記憶力・思考力を測る認知機能テストの変化と突き合わせています。

数値まとめ:最高摂取群(平均191mg/日)は最低摂取群(平均20mg/日)と比べ、グローバル認知機能の低下速度が62%速い(約1.6年分の脳の加齢に相当)

「62%速い」は何の62%か――数値の正しい読み方

まず整理したいのが、62%という数字は「認知機能が62%落ちた」という意味ではない点です。比較しているのは低下のスピードであり、8年間で誰にでも起きる緩やかな加齢性の変化が、摂取量の多い群でより速く進んでいたという関係を表しています。

研究チームはこの差を「約1.6年分の脳の加齢に相当」と言い換えました。中間摂取群でも低下速度は35〜36%加速し、こちらは約1.3年分に相当します。

  • 62%=低下の「速度差」であり、認知機能の絶対的な目減り幅ではない
  • 最高摂取群と最低摂取群の差は、脳年齢にしておよそ1.6年分
  • 調査した7種類のうち6種類で加速的な低下との関連が確認された

「1.6年」は個人が日常で自覚できるほど大きくはありませんが、集団全体で見れば軽視しにくい規模です。

191mg/日という量と、影響が出やすかった人

次に知りたいのは「自分はその量を超えているのか」でしょう。最高摂取群の平均191mg/日は、アスパルテーム換算でダイエット炭酸飲料およそ1缶分。特別に多量というより、習慣的に飲む人なら十分到達しうる水準です。

さらに注目すべきは、関連の強さが人によって違った点です。

  • 60歳未満:言語流暢性とグローバル認知の低下で有意な関連が検出された
  • 60歳以上:有意な関連は確認されなかった
  • 糖尿病のある人:特に記憶力の低下で関連がより強く出た

つまり今回の知見は、高齢者よりもむしろ働き盛りの中年期に当てはまりやすいものでした。健診で血糖や代謝の数値を指摘されている方ほど、甘味料に頼る場面を一度見直す価値があります。

なぜ脳に届くのか――腸内細菌と代謝シグナルの仮説

甘味料は脳に直接作用するわけではありません。現時点で有力視されているのは、腸を経由した間接的な経路です。

第一に、人工甘味料が腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスを変化させ、慢性的な腸内炎症につながる可能性です。全身の低度炎症は認知機能の低下と関連することが知られており、ここが接点になりうるという見方です。

第二に、腸管には甘味を感知する受容体があり、カロリーがなくてもインクレチン(GLP-1など)の分泌を促し、糖代謝を撹乱しうると考えられています。「甘い味がしたのにエネルギーが入ってこない」という条件づけのミスマッチが、摂食行動や脳の代謝環境に影響する、という仮説です。

ただし:いずれも仮説段階です。ヒトの介入試験でこの経路を直接証明した研究はまだ限られています。

最大の論点――逆因果と観察研究の限界

ここが本記事で最も伝えたい部分です。ELSA-Brasilは観察研究であり、「甘味料が認知機能を低下させる」という因果関係を証明したものではありません

最も指摘されているのが逆因果の可能性です。糖尿病・肥満・代謝異常のリスクが高い人ほど、砂糖を避けて人工甘味料を選ぶ傾向があります。すると「甘味料をよく摂る人」=「もともと代謝リスクが高い人」となり、実際には代謝異常が認知機能低下を招いていたとしても、甘味料に責任があるように見えてしまいます。

研究では年齢・性別・高血圧・心血管疾患・糖尿病などで統計調整が行われていますが、前糖尿病状態やインスリン抵抗性といった軽度な代謝異常までは捉えきれていない可能性があります。ほかにも次のような限界があります。

  • 食事データが自己申告のFFQに依存し、測定誤差が生じうる
  • 追跡中の脱落による選択バイアス
  • 運動・喫煙・食事全体の質による残余交絡
  • 加糖飲料との比較対照群がなく、「多い vs 少ない」の比較にとどまる

最後の点は特に重要で、この研究は「砂糖入り飲料に戻せばよい」という結論を支持するものではありません。

WHO・FDAはどう見ているか――規制当局の現在地

甘味料の評価は研究1本で動くものではありません。国際機関の立場も押さえておくと、ニュースの温度感を測りやすくなります。

2023年7月、WHO傘下の国際がん研究機関(IARC)はアスパルテームを「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」(グループ2B)に分類しました。ただしこれは主に肝細胞がんに関する限定的な証拠にもとづくもので、グループ2Bは「危険性の大きさ」ではなく「証拠の確からしさ」を示すカテゴリです。

同じタイミングで、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は一日摂取許容量(ADI)を体重1kgあたり0〜40mg/日で維持し、「現行の摂取量の範囲では安全」との立場を再確認しました。米国FDAも安全性の判断を変えていません。

スケール感:体重60kgならADIは1日約2,400mg。今回の研究の最高摂取群(191mg/日)はこれを大きく下回ります。つまり争点は「基準超過」ではなく「習慣的な毎日の摂取」です。

実践プロトコル――禁止ではなく「毎日」を見直す

以上をふまえた、過度に不安を煽らない現実的な落としどころを整理します。

  1. 「毎日1缶」からの脱却:ダイエット飲料1缶(約190mg)を毎日という習慣を、まず「時々」に下げる。ゼロにする必要はありません。
  2. 置き換え日をつくる:週のうち数日を無糖の水・炭酸水・お茶に。無糖の炭酸水をストックしておくと、甘い飲料に手が伸びる場面を物理的に減らせます。
  3. 高リスク層は優先度を上げる:糖尿病・前糖尿病・インスリン抵抗性を指摘されている方は、関連が強く出たサブグループに該当します。依存度が高い場合は医師や管理栄養士に相談を。
  4. 中年期こそ見直しどき:有意な関連が見られたのは60歳未満でした。20〜50代の生活習慣の再点検として位置づけるのが妥当です。
  5. 砂糖に戻さない:加糖飲料との比較対照がない以上、「甘味料が危ないから砂糖へ」は根拠のない置き換えです。目指すのは甘い飲料そのものの頻度を下げることです。

今回の研究は、甘味料を「摂ってはいけないもの」に格上げする性質のものではありません。むしろ「カロリーがゼロなら影響もゼロ」という暗黙の前提を、いったん保留するための材料と捉えるのが適切でしょう。

⚠️ ご注意:本記事は科学的エビデンスの紹介を目的としており、医療診断・治療の代替にはなりません。糖尿病などで食事管理を受けている方は、甘味料の使用について主治医・管理栄養士にご相談ください。

参考文献

  1. Gomes Gonçalves N, Martinez-Steele E, ... Suemoto CK. "Association Between Consumption of Low- and No-Calorie Artificial Sweeteners and Cognitive Decline: An 8-Year Prospective Study". Neurology, 2025;105(7):e214023. DOI: 10.1212/WNL.0000000000214023 (PMID: 40902134).
  2. American Academy of Neurology. "Some sugar substitutes linked to faster cognitive decline". AAN Press Release, 2025年9月.
  3. World Health Organization. "Aspartame hazard and risk assessment results released". WHO News, 2023年7月14日.
  4. IARC Monographs Volume 134. "Aspartame, Methyleugenol, and Isoeugenol". International Agency for Research on Cancer, 2023.
  5. FAO/WHO Joint Expert Committee on Food Additives (JECFA). "Summary of findings: aspartame acceptable daily intake". WHO, 2023.
  6. U.S. Food and Drug Administration. "Aspartame and Other Sweeteners in Food". FDA, 2023年更新.
  7. Neurology Today (American Academy of Neurology). "Low- and No-Calorie Sweeteners Pose Significant Risk to Cognitive Health". 2025.